インターネットが広く普及し、医療情報を簡単に入手できる時代となりました。さらに最近では、自分から知りたいことを検索しなくても、おススメの動画や話題のツイートなどが勝手に表示されるほど便利な世の中になっています。
それまでは「分からないから医者に任せよう」と考えられていた部分について、今では一般の方々が気軽に医療情報に触れ、自分自身で色々と考えられるようになったことは素晴らしいです。
一方で、正しい情報かを判断することが難しくて余計に悩んだり、間違った情報に翻弄されてしまったりすることもあります。たとえ正しい情報であっても、発信者の意図が正しく伝わらず、誤解を生むことも珍しくありません。
上手に使えばとっても素晴らしいインターネット医療情報ですが、このようにたくさんの危うさも伴います。 今回は、インターネットを通じて医療情報を発信する者として、どのようにインターネット医療情報と付き合っていくのが良いか、解説したいと思います。
信頼できる情報の見極め方
様々な情報源がありますが、私の考える信頼度ランキングを、その理由を付けて紹介します。
<第1位:厚生労働省や各学会(日本小児科学会など)>
多くの専門家が情報作成に関わり、丁寧に吟味を重ねた結果として公開されるものですので、最も信頼できる情報であると考えます。
一個人の偏った見解が入り込む余地は限りなく小さいと思われます。
<第2位:医師が執筆する医療情報サイト記事>
メディカルノートやイシャチョクなど、いろんなサイトがあります。
これらの記事の多くは、医師が依頼を受けて自ら執筆するため、専門性が高い記事であることが多いです。依頼を引き受ける医師は情報発信に積極的な方が多いため、熱心に下調べをして正しい情報が書かれることが多いです。 ただし、書いた記事を最終的にチェックするのは非医療者であることも多いため、執筆者個人の見解が入り込む余地はそれなりにあります。とはいえ、運営会社もある程度信頼できる医師に依頼をするので、極端な意見を持った医師が担当してしまうことは少ないです。
<第3位:医療機関(病院)の情報>
患者さん向けに情報発信を行っている医療機関もあります。
特に、利益追求を目的としていない公共の医療機関の場合、純粋に患者さんのために情報発信をしていることがほとんどなので、信頼度は上がります。その施設の看板を背負っているため適当なことも書けません。
ただし、「病院や上司から頼まれたから仕方なく書いた」というケースもあり、そういう場合は執筆者に意欲や熱意が足りないこともあります。そうすると下調べが不十分で、「とりあえず記事さえできればOK」という気持ちで、不正確な情報・古い見解が混ざることもあります。また、複数の医師で記事をチェックするとは限らないため、一個人の偏った見解が入り込む余地もあります。
<第4位:個人のブログなど>
質の高い情報もあれば、誤った情報もあり、まさに玉石混交状態なのが個人の発信する医療情報です。私のブログもここに入りますので、本当はもっと上位にランク付けしたいのですが、残念ながら信頼できない情報も多数存在するカテゴリーになります。
その理由として、誰でも簡単に自由に好きなことを発信できることにあります。チームで運営しているものと違って、情報の正確性をチェックする機能がないことが大きいです。
一方で、大きなメリットとして、気軽に記事をかけることがあり、記事が出来上がるまでのスピードは断トツで速く、公開されている記事の量も圧倒的に多いです。 信頼度ランキングが一番低い「個人のブログ」ですが、そのなかにも信頼できて価値のあるものも多数存在します。次は、個人の情報発信について、信頼できる・できないを見分けるコツについて紹介します。ブログ、Twitter、You Tubeなど、あらゆるコンテンツについて言えることだと思います。
個人の発信情報を見定めるコツ
<発信者が身分を公表しているか>
本名や所属施設、さらには顔写真を公開している場合、情報の信頼性は上がると考えます。その理由として、身分を公表することで情報に対する責任感が生まれるからです。言い換えると、適当な嘘や間違った情報を流したときに批判を受けるリスクが高くなるため、より慎重に情報を発信することになります。発信する情報に科学的な根拠はあるか、内容に間違いはないかを丁寧に吟味してから発信することが求められます。念のため申し添えておくと、「身分を公表しなければ適当な情報を発信してもよい」ということではありません。
また、中には医師ではないのに医師と偽って(もしくは医師を装って)、あたかも医師であるかのように情報を発信されている方もいます。その点でも身分を公開していることは安心材料の一つになり得ると思います。
<その道の専門家か>
まず医療者であることは大前提かと思います。
もちろん、患者さんのブログや経験談も参考になることはありますが、一般論には当てはまらないことも多いため注意が必要です。ここの見極めが非常に難しいと思いますので、自信のある方を除きあまりおススメできません。
そして、医療者にも様々な職業があり、医師の中にも専門があります。「この記事を書いているのは何科の専門家なのだろう?」と気にしてみるのは大事です。さらに小児科の中でも細分化され、神経、感染症、アレルギー、新生児領域などなど、専門分野・得意分野を持っていることが多いです。たとえば私は小児科の中でも小児神経が得意分野ですので、てんかんや発達のことは人一倍専門的に解説できます。一方で、小児の感染症についてもプロではありますが、小児感染症を専門にしている先生の方がさらに詳しいことは言うまでもありません。
<断言をしていないか>
正確な情報発信に気を付けている方ほど、断定的な言い方は避ける傾向にあると思います。医療は「100%これが正しい」というようなものは少ないからです。
たとえば私は「なるべくワクチンは打った方がいい」と思っていますが、もちろんワクチンもメリットとデメリットがあります。それを正しく伝えるのが我々の役割であり、最終的に判断するのは本人やご家族です。「ワクチンは100%打つのが正しい」もしくは反対に「ワクチンは絶対に打つべきではない」などのように、はっきりと断言するのは医療情報としては間違いを含んでいる(もしくは誤解を生みやすい)可能性が高まります。
医療情報との付き合い方
我々医療者は、日々の診療の中で、患者さんや親御さんに説明をする場面がたくさんあります。その際、相手のリアクションを見たり、「ここまでで分からないところはないですか?」と確認しながら話をしていきます。それによって追加で説明をした方がいいか、先に進んでいいかなどを判断します。
そのなかで、こちらとしては分かりやすく説明をしたつもりでも、「つまり○○ということですか?」と親御さんは全く違う解釈をしていることもあります(もちろん反省すべきは医師の方です)。
なにが言いたいかというと、医療情報のような専門性の高いお話では、双方向で顔を合わせてコミュニケーションをしても、間違って伝わることがあります。ましてや、字面だけで説明されるブログやTwitterでは、そのリスクはもっともっと大きいでしょう。
なので、ブログやTwitterを見て「えー、これほんとかな?」と少しでも疑問に思うことがあれば、それを鵜吞みにすることはせず、かかりつけの医師などに聞いてみるようにしてほしいです。
最後に
日本インターネット医療協議会の医療情報利用の手引きを見ると、「情報の利用は自己責任が原則」であり、利用者が不利益を被っても情報提供者の責任を問うことは難しくなってきているとのことです。
医療情報は命にかかわる大事なお話です。
間違った医療情報を流す発信者に問題があることは言うまでもありませんが、それに流されてしまわないように、読者の方々にも慎重な姿勢が求められる時代になってきていると感じます。
インターネット医療情報は有効に使えば大きな武器になりますが、それよりもかかりつけの医師など、直接面と向かって相談できる方のお話を大事にしてください。
コメント