不登校は、それ自体が病気というわけではありませんが、「学校にいけない」という理由で病院を受診するお子さんが少なくないことも事実です。
そのため、小児科医としても関わることの多いものになります。
- 不登校で受診した方がいいのか?果たして病院はなにができるのか?
- 不登校のお子さんとのかかわり方のコツは?
この辺りを中心に解説をしたいと思います。
この記事が特効薬になるとは思っていませんが、不登校で悩んでいるお子さんや親御さんの参考に少しでもなれば幸いです。
どこからが不登校?
文部科学省の定義では、「病気や経済的な理由以外で、年間30日以上学校を欠席している状態」を不登校と定義します。ただし、30日という数字はあくまで目安として考えていただき、それより少なくても学校に行くことに大きな困難を抱えている場合は、不登校のお子さんと同様に手を差し伸べる必要があるかもしれません。
病院の役割その1 ~病気を調べる~
不登校のお子さんでは、単に「学校にいけない」というだけでなく、何らかの身体の症状(身体症状)を伴っていることも珍しくありません。特に小児科外来を受診するようなお子さんでは、「身体症状を理由に受診したが、不登校もある」ということが多いです。
起立性調節障害などの診断がつくこともあるため、まずは治療可能な病気が隠れていないかを診てもらうことが第一歩になります。
身体の症状があっても、特に治療すべき病気がない場合もあります。
心理的なストレスが、頭痛や腹痛などの症状として表れることもあり、この場合は特効薬のようなものはありません。ですが、「大きな病気の可能性は低い」と診断を受けることでも、心理的な不安が和らぎ症状自体が良くなることもあります。
また、心と身体のつながり(心身相関)について、お子さんや親御さんに医学的に説明して、理解してもらうことも大事です。単なる気持ちの問題では無いことを説明して理解してもらうだけでも、心理的にずっと楽になることもあります。
病院の役割その2 ~第三者としての聞き役~
学校の先生や周囲の大人の方が考える「原因」と、子どもから聴取された「真の原因」が異なっていることが多いという調査報告があります。これは「大人は理解しようとしていない」ということを言いたいのではなく、真の理由を把握することがとても難しいということです。
お子さんによっては、関係の近い人や毎日のように会う人には、今後の関係性の悪化を恐れたり気を使ったりするあまり、本当のことを言えない子もいます。そのため、いつも深くかかわってくれている親御さんや学校の先生ほど、本当の理由を教えてもらえないということもあります。
小児科医や心理士が第三者としての聞き役になることで、真の理由を把握できるようになったり、お子さんが溜め込んでいた思いを吐き出す場になったりすることで、解決につながっていくこともあります。
さらに、親御さんや学校と違って、「通うのが嫌になったらいつでもやめてよい」というのは病院の大きなメリットです。病院はいくらでもありますので、そこの先生には嫌われたっていいんです。お子さんだけでなく親御さんも、思うことをなんでも吐き出してもらって、「ここの病院は合わないな」と思えば遠慮なく病院を変えても大丈夫です。
病院の役割その3 ~薬の処方~
「学校に行きたくなる薬」はもちろんありませんが、たとえば頭痛などを伴っている場合は、痛み止めを出すこともできます。痛み止めがすべてを解決するわけではありませんが、お守りとして心理的なストレスを和らげることもありますし、それで学校に行けるようになると「自分で痛みをコントロールできた」と成功体験として記憶されます。薬もデメリットがないわけではありませんので、過剰に期待しすぎるのはよくありませんが、上手に使えば良い効果が期待できます。
このように、身体の不調を訴えた時はそれが解決の糸口になることも珍しくありません。不登校としてではなく、身体の症状を理由に小児科を受診し、ついでに不登校でも困っていることをお話してみていただけると幸いです。
親と子の思いが一致していない場合とは?
多くの不登校で、親御さんとお子さんの希望が一致していないケースがあります。
親御さんは「学校に行ってほしい」と思っており、お子さんも「学校に行きたいけど行けない」というケースは、「学校に行きたい」という思いが一致しています。
一方で、親御さんは「学校に行ってほしい」と思っているが、お子さんは「学校に行きたくない」と思っている場合、お互いの希望が一致しておらず、短期的に解決しようとすると無理が生じて余計に悪化することがあります。
まずはお子さんが学校に行きたいと思っているのか、そうでないのかを把握することが重要です。
どのように関わっていく?
いきなり学校に行かせようとしても当然うまくいきません。
まずは、自分の家の中でお子さんが安定して過ごせることを目指します。家の中でお子さんも親御さんも気持ちが安定してくると、家の中で楽しめることを見つけるようになります。それから、子どもの興味や関心が家の外の世界にも伸び始めるようになります。そこまできてようやく、「これからどうしたいか、学校をどうするか」という将来の方向性を考えられるようになります。
この気が遠くなるような、しかしとても大切なステップを省略して、いきなり「どうやったら学校に行けるだろうね」と、最後にやるべきステップを最初に持ってきてしまうと、おおかた上手くいきません。我々小児科医は、登校刺激(学校に行くように促すこと)を行うときは、相当な慎重さをもって行います。
二度とない学校生活は何もしなくても過ぎていくので、親御さんが焦る気持ちはとてもよくわかりますが、焦って行動すると多くの場合で悪い方向に進みます。最初のうちは、「せっかく病院に連れて行ったのに何も具体的な解決策を言ってもらえなかった。」と不満に感じるかもしれませんが、ゆっくり進むことが実は最短の方法なのです。もちろん、良好な関係が構築できたところで、小児科医から具体的な行動案などを提案していくことも出てきます。
最後に
不登校に対して医療ができることは限られています。特効薬もありません。魔法の言葉で学校に行かせることもできません。
それでも小児科医は、悩める親御さんとお子さんの力になりたいといつも思っています。困ったときは家庭と学校だけで抱えないで、どうぞ気軽に小児科にご相談いただけますと幸いです。
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