神経発達症(発達障害)って?

子どもの発達

多くの方に「神経発達症(発達障害)」という病名が広く知られるようになってきています。
「うちの子は発達障害ではないでしょうか?」や「幼稚園の先生から『発達障害かもしれないから病院に行った方がいい』と言われました」といって小児科を受診する方も珍しくありません。

しかし、発達障害と一口に言っても様々なパターンのお子さんがおり、しかも「病気」と「個性」の境界がはっきりしておりません。様々なお子さんがいるだけに、「うちの子はこうだったよ!」や「こうやるといいよ!」といった経験談やアドバイスなども、自分の子にはまったく当てはまらないということもよくあります。
このような独特の難しさから、「発達障害」というワードだけが独り歩きして、間違った解釈をしてしまっている親御さんも少なくありません。

今回は、間違った理解が生まれやすい発達障害に関して、小児科・小児神経内科の視点からなるべくわかりやすく解説いたします。

なお、「発達障害」ではなく「神経発達症」という名前の方が病名としては適切であり、この病気に関して「障害」という言葉を使用するのは不適切でありますので、以下は「神経発達症」に用語を統一しています。

神経発達症とは?

神経発達症を一言で言うと、コミュニケーションや人付き合いが苦手な病気です。

ただし、神経発達症を一言で表すのはかなり強引であり、実際は症状のパターンも苦手具合も様々です。例として、このようなお子さんがいます。

  • じっとできない
  • 人の話を聞けない
  • 友だちや大人たちと関われない
  • 空気が読めない
  • 会話がなりたたない
  • 冗談が理解できない
  • こだわりが強い
  • すぐに乱暴を振るう

これを読んで、「自分って小さいころ神経発達症だったんじゃないだろうか?」と思った方は、少なくないのではないでしょうか?そういう私も子どものころは、「落ち着きがない」と先生に怒られたり、ちょっとしたことで友達と揉めて喧嘩をした経験は何度もあります。むしろ、そういった経験がない方の方が少ないのではないでしょうか。

つまり、「神経発達症」と「まあ、子どもならこんなもんだよね」の境界はとてもあいまいです。

「神経発達症」と「ただの個性」の境界は?

繰り返しになりますが、この境界はとてもあいまいです。
「白」か「黒」の2つしかないわけではなく、グレーゾーンのお子さんもたくさんいます。

グレーゾーンのお子さんは、無理に「白」か「黒」かのレッテルを貼るのではなく、グレーゾーンとして対応していくのが良いと思います。大事なのは診断ではなく、その「個性」によってお子さんが困ってしまうようなら、「神経発達症」としての対応を考えていくということです。

  • 神経発達症かどうかはグレーでも、お子さんが困っているならば支援の仕方を変えてみる。
  • 神経発達症かどうかはグレーだけど、本人がのびのびと楽しくしているからそのまま見守る。

神経発達症はどんなものがあるの?

神経発達症は主に以下の4つに分類されます。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如・多動性障害(ADHD)
  • 学習障害
  • その他

これらは合併することも多いですし、完全に分類できないことも多いです。今回は、自閉スペクトラム症とADHDについて、少し詳しくお話します。

自閉スペクトラム症(ASD)とは?

<自閉スペクトラム症の主な症状>
・社会的なコミュニケーションの障害
・何かに対するこだわりの強さ

自閉スペクトラム症のお子さんは、自分の理解できる範囲・興味のある範囲がクリアに線引きされていて、そこをはみ出すと不安になったり、どうしていいかわからなくなります。そのため、あいまいな指示が苦手だったり、興味のないことにまったく関心を示さなかったりします。

かかわり方としては、明確な指示をするように心がけ、少しずつ経験を重ねることで、理解できる範囲・興味のある範囲を広げていくのが重要になります。

ちなみに、「自閉症」という言葉の方が、馴染みがあるかもしれませんが、現在は「自閉スペクトラム症」と呼びます。「スペクトラム」という言葉には、「境界があいまいなもの」という意味があります。「単なる個性」と「病気」の明確な境界はなく、症状も千差万別であることが、病名からもわかります。

注意欠如・多動性障害(ADHD)とは?

<ADHDの主な症状>
・多動性(じっとしてられない)
・衝動性(突然行動してしまう)
・不注意(集中力があっちこっち)

これだけだと、「うちの子はADHDだ」とか「むしろ私自身がADHDかも?」と思う方も少なくないと思います。

ADHDも自閉スペクトラム症と同じように、「スペクトラム」のあるものです。
ADHDの症状のせいで日常生活に大きな障害が出ている場合に、ADHDとしての対応が必要になってきます。

なお、ADHDは「わざとやっている」「周りの人を困らせようとしている」と誤解されてしまうこともありますが、決してそうではありません。ADHDの本人もどうにもできずに、突然スイッチが入ってしまうのです。周りの方も大変だとは思いますが、なによりも一番困っているのは本人だということをわかってあげることが第一歩と思います。

神経発達症にはどう対応する?

神経発達症の症状や程度が千差万別であるように、正しい対応の仕方もお子さんによってさまざまではあります。そのためここでは一般的に良い結果につながりやすいとされている対応について説明をします

1.ゴールを理解する。

神経発達症の診療のゴールは、神経発達症を無くすことではありません。
むしろ、神経発達症を自分の特徴として受け入れ、のびのびと生活を送るようになれること、自分が幸せを感じられるようになることがゴールになります。

2.周りの方がその子の特徴を理解する。

手のかかるお子さんも、困らせようとしてやっているわけではなく、自分も苦しんでいることが多いです。まずはそこをわかってあげることが重要です。
そのうえで、どのように説明をしたら理解しやすい子なのか、どのくらいの指示ならこなすことができる子なのか(いっぺんに2つも3つもお願いしても大丈夫なのか、1つまでにした方がいいのか)などを理解して、できることを積み重ねていくことが大切です。
「できなかった経験」よりも「できた経験」がお子さんをより成長させます。その子の得意なこと・不得意なことを理解して、成功体験を積み重ねていきましょう。

3.わかりやすい生活にしてあげる。

神経発達症のお子さんは、思っていたのと違った状況に対応することが苦手です。
我々は、寝る時間や食事の時間が多少変わっても適応できますが、神経発達症のお子さんはそのリズムがずれてしまうと不安を感じてしまいます。お子さんの不安を取り除き、経験・成功体験を積み重ねられるよう、規則正しい・わかりやすい生活にしてあげることが重要です。

毎日の起床・就寝、宿題、お手伝いなどを、習慣として決まった時間に固定し、新しいことを始める場合や普段と違うこと・違う時間にやる場合は、事前に説明をしてあげましょう。

また、ご両親がケンカをしたりすることも、お子さんにとっては突然の異常事態でとても不安を感じることになります。各ご家庭でいろいろあるとは思いますが、お子さんの前ではいつもご両親が仲良くしていることも大事です。

4.指示はわかりやすく、単純に、短く

神経発達症のお子さんは、あいまいな状況や指示を理解することが苦手です。
お子さんの成長には経験・成功体験を積むことが大事ですので、お子さんが成功できるような指示を出しましょう。

「ちゃんとして」や「しっかりしてね」などの具体性のない指示は、どのようにやったらいいかわからず、良い結果につながりません。

また、「○○をやったら、△△をやって、それから□□をお願いね。」のようにいくつも指示を出されると、全部を覚えられず混乱してしまいます。一つずつお願いするのも大事です。それから、「明日の10時にこれをやろうね」と明確な指示を出しても、少し先のことだと忘れてしまうことがあります。直前にもう一回お話しするか、見える場所に書いておくなどの工夫をするといいでしょう。

5.いいところを見つけて褒める。できなかったことは無視する。

褒めることができる部分を見つけて褒めてあげましょう。
完璧にこなせなくても、一部分だけでも褒めてあげましょう。

たとえば、「片付けのお手伝いをしてくれたけど、すぐに途中で飽きちゃって遊びだした」場合、遊びだしたことを怒るのではなく、お手伝いをしようとしてくれたことを褒めてあげましょう。
できなかったことは注意や怒るのではなく無視しましょう。先ほどの例でいうと、「なんですぐ飽きちゃうの」や、「やるって約束したよね」とか、「ダメじゃない」などというセリフは逆効果になることが多いです。むしろ、できなかったことは無視し、「お手伝いしてくれたのありがとう。すごいね。」と褒めてあげましょう。

6.「まあいいか」と許容する。

親御さんの思い通りの行動だけをしてくれるお子さんなどいません。
親御さんの方に「まあいいか」と許容できる心が広がると、親御さんのストレスも少なくなり、お子さんの安心感も増えます。「自分もきっと子どものころは大変だったんだろうなあ」と思いを巡らせ、「このくらいはまあいいか」と許容してくことも大事です。

最後に

神経発達症は年単位でじっくりと取り組むべき問題です。

幼稚園や学校などで、病院の受診を勧められることは多いですが、「病院に行けばたちまち状況が好転して、みるみるうちに人付き合いが得意になっていくだろう」なんてことは絶対にありえません。

まずは親御さんも、われわれ医療者もそのことをしっかりと認識して、どっしりと腰を据えて向き合っていく必要があります。

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