摂食障害

症状と病気

必要なエネルギーを十分に摂取できない摂食障害は、多彩な身体の不調を引き起こし、小児の健全な成長を妨げる要因になります。

10代~20代に多い病気ですが、近年では小学生でも決してまれな病気ではなくなってきています。

小児の摂食障害の代表疾患である「神経性やせ症」の死亡率は5~10%と報告されており、早期発見・早期治療が重要です

さらに、身体の不調に対して小児科の役割が重要である一方、心理的な問題を抱えることも多いため精神科や心理士の関わりも大事です。そのため、患者さんが適切な通院先に巡り合えず、望ましい治療を受けられないケースも見受けられます。

摂食障害に至った原因も千差万別であり、型にはまったやり方に当てはめることが難しい病気ですが、小児科医として見過ごせない病気でありますので、摂食障害についてなるべく分かりやすく解説します。

摂食障害とは

摂食障害とは、食べない、食べ過ぎる、食べたものを吐くといった食行動の異常を起こす病気の総称ですが、その中で最も多いのは、「食べない」が主体でやせをきたす「神経性やせ症」です。「思春期やせ症」や「拒食症」とも言われます。

「神経性やせ症」では、本人はやせていると思っておらず、極端なやせ願望を持っていることが多いです。最近はやせ願望がないのに「食べない」「食べられない」という症状が続く「神経性やせ症」に当てはまらない摂食障害も増えてきており、何かしらの心理的な理由があることが考えられています。

摂食障害が増えている理由

様々な理由がありますが、一つにはメディアやSNSの普及により、子どもの理想の体型モデルがゆがめられていることが挙げられます。俳優やモデルはスリムでやせ体型の人が多く登場するため、やせ~標準的な体型の子どもでも「太っている」と誤って認識してしまうおそれがあります。
また、近年にはじまったことではありませんが、スポーツが原因になっている子もいます。マラソンやダンス、格闘技など、体型維持や体重制限が厳しいスポーツをしている子では、それが理由となって摂食障害を発症することもあります。

摂食障害の症状

摂食障害の子は、やせていて元気がないイメージがあるかもしれませんが、最初のうちはむしろ活発で、色んな活動に熱心に取り組む傾向があるため、見逃されがちです。

標準体重の90%を下回ったあたりから、月経不順やイライラ、うつっぽさなどの不調が出ます。80%を下回ると脳の萎縮や心機能の低下、骨密度の低下など、重要な臓器に影響が出ます。70%を下回ると意識消失や命に関わる危険性があります。

摂食障害はどんな子に多いの?

摂食障害は「まじめで頑張り屋さん」のタイプに多いです。
そして自己肯定感が低く、「自分がどうみられているか」の周りの評価が特に気になります。ただし、本人の気質だけで発症するかどうかが決まるわけではなく、家族がどのような関わり方をしているか、友人や異性との関係、その子を取り巻く環境やメディアの影響も大きいです。

受診のタイミングは?

病院に相談する目安

  • 肥満度-15%以下
  • 昨年より体重が3kg以上減っている
  • 成長曲線で体重増加が停滞もしくは減少している
  • 「食べない」などなにか食行動の異常がある
  • 元気がない、うつっぽい、イライラ、月経の異常

成人では、肥満ややせの指標としてBMIがあります。
小児では肥満度を使うことが推奨されていますが、標準体重を算出する必要があり計算がややこしいので少々不便です。最近は、肥満度を計算してくれるサイトもあり、「小児 肥満度 計算」などで検索すると出てきますので利用するといいでしょう。

受診のコツ

「やせすぎだから」「摂食障害だから」などの言い方は、子どもの反感・受信拒否を招きます。
まずは医療機関に来てもらうことが大きなハードルなので、子どもの抵抗を減らしてあげる言い方を心がけましょう。ベストな言い方はその子によって違いますが、一般的には「なにか怖い病気が隠れていないか、念のため病院に相談しよう」とか、「食べられなくなる病気もあると聞いたから、一応相談してみよう」などと、あくまでも身体の病気を心配しているという言い方が良いです。

受診先は小児科?精神科?

摂食障害の治療には、小児科と精神科の両方が必要になるケースが多いです。

いきなり精神科を受診することに抵抗を感じるお子さんもいるかと思いますので、その場合はまずは小児科に相談してください。最初に受診するのはどちらが良いということはありませんが、まずは医療機関に来てもらうことが大きな第一歩です。受診しやすい方を選ぶことをお勧めします

摂食障害の治療は?

症状や体重減少の程度によって、外来で治療を行う場合と入院が必要な場合とがあります。

どの患者さんにも大事なのは、摂食障害についての教育を行い、治療の必要性や摂食障害でいることの身体的なリスクについて理解してもらうことです。そのためには、医療者と患者さんとの関係づくりが重要です。受診をねぎらい、「患者さんの困っていることを解決したい」「体重を増やしたいというよりも、とにかく健康でいてほしい」ということを強調しています。

食事療法では、安全かつゆっくりと体重を増やすこと、無理なく継続可能であることを意識して、食事計画を患者さんや親御さんと一緒に作っていきます。このときに患者さんときちんと「約束」をすること、一方的に決めないことが大事です。

心理面については、心理士による心理療法(カウンセリング)等を通して、摂食障害の要因となった心理的な問題を緩和していきます。

大事なこととして、摂食障害の治療は簡単なものではなく、数か月~年単位の時間がかかることもあります。心理的な問題を解決しないと、一度改善しても再発することも珍しくありません。焦らずじっくりと取り組む必要があることを説明し、親御さんや周囲の人もそのことを理解して、患者さんにプレッシャーを与えないようにすることも大事です。

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