RSウイルスは、新生児や乳児にとって非常に注意が必要なウイルスのひとつです。
年長児や大人が感染してもただの風邪で済むのがRSウイルスですが、新生児や乳児は重症の呼吸障害を起こし、人工呼吸管理や命に関わる状態になることもあります。
RSウイルスから生まれてくる子どもを守るために、妊婦さんが接種する新しいワクチン「アブリスボ」が登場しました。 この記事では、アブリスボの特徴・効果・安全性について、わかりやすくご紹介します。
RSウイルスとこれまでの予防法
RSウイルスは、風邪の原因となるウイルスです。以前は冬に流行するウイルスでしたが、近年は夏にピークが来ることのほうが多く、年中季節問わず感染しうるウイルスになってきています。
新生児や乳児が感染すると、無呼吸や低酸素血症を認め、入院や人工呼吸管理を必要とすることも珍しくありません。RSウイルスに対する特効薬はなく、感染してしまった後は、自分の免疫の力で治癒するしかありません。
RSウイルスに対する予防薬は、子どもに投与する抗体薬※がありました。(※厳密にはワクチンとは異なりますが、ワクチンのようなものと考えてください。)しかしこの抗体薬は、早産児や心臓に疾患を持つ子など、一定の条件を満たさないと接種することができない決まりになっています。
赤ちゃんを守る新常識:妊婦が接種するRSウイルスワクチン「アブリスボ」
今回新たに登場した「アブリスボ」は、子どもが産まれる前に妊婦さんが接種することで、これから生まれてくる赤ちゃんに抗体を届けるという新しいアプローチです。
このワクチンは、妊娠24週から36週の間に接種することで、赤ちゃんにRSウイルスに対する免疫を与えることができます。 つまり、赤ちゃんが生まれてすぐの時期に最もリスクの高いRSウイルス感染から守る“先回りの予防”が可能になったのです。
アブリスボの効果と副反応
アブリスボの接種によって、赤ちゃんのRSウイルスの発症予防、感染したときの重症化予防の2つが期待できます。発症予防効果は約50~60%、感染したときの重症化予防はなんと約70~80%と報告されています。これは非常に高い予防効果であり、特に感染症に弱い新生児期~生後3か月の間で大きな恩恵があります。
ワクチンの効果は赤ちゃんが生後6か月頃まで続き、その間のRSウイルスによる入院リスクを軽減してくれます。
アブリスボ接種に関しては早産の発生率がわずかに上昇したと報告されていますが、アブリスボの影響かどうかははっきりしていません。いまのところは偶然の範囲ではないかと考えられています。ただし我々医療者は、今後もこの辺りの真偽を厳しくみていかなければいけません。それ以外に報告されている副反応は、ほとんどが軽度のものでした。予防接種でよくみられる、接種部位の腫れや痛み、倦怠感、頭痛などが主で、発熱や重い副作用はまれです。
アブリスボは日本国内でも2024年に承認され、安全性と効果が確認された上で推奨されています。
いつ接種する?どこで接種できる?
アブリスボは、妊娠24週から36週の妊婦さんを対象としたワクチンです。この期間であればいつでも接種することは可能です。しかし、接種をしてから2週間以内に生まれた場合、十分な抗体が赤ちゃんにつかない可能性もあります。そのため、36週ギリギリでの接種はおススメではありません。一方で、有効性や早産のリスクを考えると、私は32週になったところで速やかに接種することをおススメしています。
接種については産婦人科で行っていることが一般的なので、出産予定の産婦人科、産院でご確認ください。
おわりに:赤ちゃんの未来を守る選択肢として
RSウイルスは毎年多くの赤ちゃんに影響を与えていますが、アブリスボの登場で予防の選択肢が広がりました。「妊娠中にワクチンを打つのは心配」と思う方もいるかもしれませんが、多くのデータと専門家の評価に基づいて安全性が確認されています。
重症のRSウイルス感染の新生児や乳児を見るたびに、「もしアブリスボを打っていればただの風邪で済んだかもしれない」と感じます。もちろん、「アブリスボを打ったから軽く済んだ、あるいは、感染しなかった」と証明することはできません。そのため、ワクチンの効果を実感しにくいというもどかしさもあります。でも、きっとアブリスボのおかげで助かった赤ちゃんもいるはずです。
赤ちゃんが安心して生まれてこれるように、そして産後すぐの育児をより穏やかに過ごせるように、この記事が参考になると幸いです。
最後に、アブリスボを接種しても完全にRSウイルス感染を防げるわけではありません。そして妊婦さんや赤ちゃんにとって怖い感染症はRSウイルスだけではありません。そのため、赤ちゃんの周囲の大人が手洗いや咳エチケットなど、基本的な感染対策を行うことも引き続き重要です。
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