みなさん、こんにちは。
いつも「かなけい小児科ブログ」をご覧いただきありがとうございます。
先日開催されました第128回日本小児科学会学術集会で、「男性小児科医師の育児休業」について、多くの小児科医の前でお話してきました。
父親の育児休業取得は、決して医師に限ったお話ではなく、多くのパパたちにお話ししたい内容でもありましたので、この場を借りて私の体験談を紹介させていただきます。
父親の育児参加が当たり前になる社会へ
最近では、共働き家庭が増え、父親が育児に関わることの重要性が注目されるようになってきました。実際、日本でも育児休業を取得する男性が少しずつ増えています。平成27年度までは5%に満たなかった男性の育児休業取得率ですが、令和5年度には37.9%まで向上しています。

※厚生労働省.令和5年度雇用均等基本調査より作図
世界各国を比べたUNICEFの報告書では、日本は欧米諸国と比べて男性が取得できる育児休業の期間が特に長く、育児休業制度設計に関して世界一の高い評価を得ています。
それでもまだまだ足りない父親の育児休業取得
男性の育児休業が年々増えていることは素晴らしいですが、80%以上である女性の取得率と比べるとまだまだと言わざるを得ません。
また、先ほど「育児休業制度が素晴らしい」と評価されたUNICEFの報告書ですが、実際の取得率は欧米諸国に比べて日本は圧倒的に低く、せっかく世界トップレベルの制度が整備されているにもかかわらず、十分に活かしきれていないというのが実情です。
さらにもう一つの問題点として、取得期間の短さがあります。厚生労働省の2021年の報告では、育児休業を6か月以上取得した女性は95.3%だったのに対し、男性は5.5%と少なく、取得日数は5日未満が25%,5日以上2週間未満が26.5%と,半数あまりが2週間未満でした。

※厚生労働省.令和3年度雇用均等基本調査より作図
子どもの年齢が上がるにつれて育児に対する母親のイライラ感が高くなり,養育上の困りごとを抱える母親の割合も増加します。子どもの成長に伴い、行動範囲の拡大や自己主張によるストレスの増大、育児内容の多様化、長期の育児による疲労といった問題が生じてくることを勘案すると、2週間未満の育児休業は十分な期間とはいえません。幼児期までの長期的な育児休業を取得可能とすることが今後望まれます。
父親の育児参加は少子化対策にも
日本では少子化の進行,労働力不足も深刻です.日本の出生率は減少傾向にあり,2022年の出生数はおよそ77万人で,初めて80万人を割る数値となりました.厚生労働省の調査によると,父親の第1子の育児頻度が多くなるほど,母親の継続就業割合が高くなるとともに,第2子出生率が高くなることが示されています。少子化対策の一環としても男性の育児休業取得を推進していくことは重要です。
私の育児休業体験
私は小児科医であり一人の父親です。
第一子誕生の際には、思い切って育児休業を長期にわたって取得することにしました。
実は男性が取得できる育児休業制度は様々あり、私は育児時間, 産後パパ育休,配偶者出産休暇,男性職員の育児参加休暇という4つの制度を利用しました。
育児時間は,子の出生から1歳6か月になるまで,1日2回,各1時間の休業を取得することができます.本来は母親が授乳時間のために利用することを想定して作られた制度のようですが、時間帯や使い方は従業員の自由とされており、始業前に育児時間を取り朝の育児に余裕を持たせたり、終業時間までの時間に充てて早めに帰宅したりすることも可能です。
産後パパ育休は、2022年10月から施行された新しい制度で、産後8週間以内に4週間を限度として、2回に分けて取得できます。無給としている企業が多いものの、条件を満たせば育児休業給付金を受給することができます。配偶者出産休暇は、妻が出産に関わる入院をしてから産後2週間までのうち3日間を休暇として取得できる制度で、出産時の付添いや、入院中のサポート、出産後の手続き申請等に利用されることが多いです。男性職員の育児参加休暇は、妻の妊娠中から子が1歳になるまでに5日間の休暇を取得できる制度です。取得可能期間が長いため、様々な用途に利用することができます。

これらの制度の中でも、特に有効に感じたのは「育児時間」です。私は毎日15時15分から17時15分に育児時間を、期間は最長の1年半にわたり取得しました。本来の終業時間より2時間早めに帰宅をすることで、子の入浴介助や夕食の支度など、特に忙しい夕方の時間の育児と家事をすることができました。この時間は私にとってとても幸せな時間で、娘の成長をそばで感じることができる貴重な経験ができました。

育児は、家族にも社会にもプラスになる
父親が育児に参加することには、多くのメリットがあります。
家族と幸せな時間を過ごすことができる、わが子の成長を直に感じられるといった自分へのメリットはイメージのとおりかと思います。
配偶者へのメリットとしては、身体的・精神的負担を軽減できることが挙げられます。妊娠・出産を経た女性の体力や身体のコンディションは、妊娠前と同じ状態ではなく、個人差はありますが回復するまでに一定の期間を要します。そのため、妊娠・出産による身体の変化のない男性が育児休業を取得することで、その期間の育児や家事を積極的に行うことは重要です。
さらに育児に関わる人間の数が増えることは、子どもにとっても利点があります。乳児期における父親の育児分担は、将来的な子どものメンタルヘルスの不調を予防することにつながるという報告もございます。
そして、そのメリットは家庭内だけでなく、社会的な利点もあると考えています。育児休業以外にも、必要な休業制度はたくさんあります。男性が積極的に育児休業を取得することで、社会全体の意識が変わり、他に休暇が必要な場面においても、誰もが気兼ねなく取得できる職場になることにつながります。
このように、男性の育児休業の取得は、自分と家族に対する利点だけでなく、社会に対する利点も大きいため、今後も積極的に周囲の父親へ取得を勧めていきたいと考えています。
育児休業を取りやすい社会にするために
もちろん、誰でも簡単に育児休業が取れるわけではありません。「仕事が忙しくて無理」「職場の雰囲気的に取りにくい」と感じている方も多いと思います。
ですが、そんなときこそ「育休を取ることは自分と家族だけでなく、職場や社会にとってもいいことなんだ」と、前向きに考えてもらえるとうれしいです。私自身も、職場の仲間たちの支えがあって育児休業を取得できました。
そして、育児休業を取得した人は「ありがとう」の気持ちを忘れずに、周りの人の理解や協力に感謝することも大切です。チームで助け合うことが、働きやすい職場をつくる第一歩になります。
最後に
父親が育児休業をとって、積極的に子育てに関わること。それは、家族の絆を深めるだけでなく、社会全体をよりあたたかく、子どもにやさしい場所にすることにつながります。
私のこの体験が、これから育児休業を考えている方、あるいは職場でそうした制度づくりに関わる方々の参考になれば幸いです。
コメント