子どもの新型コロナウイルス感染症

症状と病気

子どもの新型コロナウイルスについてお話します。

デルタ株からオミクロン株に置き換わり、それに伴って子どもの患者様が増えてきています。
デルタ株が猛威を振るっていたころの小児患者は全体の10%以下であり、「子どものコロナは少ない」と言われておりました。しかし、オミクロン株に置き換わり、2022年9月時点で、子どもの患者様は全体の3分の1程度を占めるようになっています。

なお、最新の情報が日進月歩で更新されています。
このブログの情報もいずれ「古いもの」として扱われる可能性があります。あくまで2022年10月時点でわかっていることとして紹介しますので、ご注意ください。

新型コロナウイルスとは

単に「コロナウイルス」や「コロナ」ということも多いですが、正しくは「コロナウイルス」というのはたくさんのウイルスを含むグループです。「コロナウイルス」のグループの中には、一般的なかぜのウイルスもありますし、過去に社会的に問題となったSARSやMERSの原因ウイルスも含まれます。
その中の一つが「新型コロナウイルス(=SARS-CoV-2)」です。

日本小児科学会のホームページから、小児の新型コロナウイルス感染症の95%以上は軽症と報告されています。一方で、脳症・脳症や心筋炎、MIS-Cといった重症例の報告もあります。2022年8月23日時点で、20歳未満における累積死亡者数は26例まで増加しています。

重症例① ~急性脳炎・脳症~

急性脳炎・脳症は、高熱に伴い意識障害やけいれんといった症状を起こす病気です。
一口に脳炎・脳症といっても、症状や後遺症の重さは様々で、比較的軽症で後遺症を残さない患者様から、命を落とす患者様までおります。

新型コロナウイルスが流行する以前は、インフルエンザや突発性発疹症などが原因として多かったのですが、現在は新型コロナウイルスも主要な原因となっております。
2022年8月後半の時点で、急性脳炎・脳症のうち、原因が新型コロナウイルスであるものは10%を超えています。 日本集中治療医学会の発表によると、新型コロナウイルスで中等症・重症と判断された患者様のうち、最も多い理由が「急性脳炎・脳症(疑いを含む)」で25%を占めていました。

重症例② ~急性心筋炎~

感染によって心臓の筋肉に炎症が起こる病気であり、新型コロナウイルス以外のウイルス感染症でも起こります。

最初は単なるかぜか胃腸炎であるものの、数時間~数日で悪くなり、息切れやぐったり、意識障害といった心不全症状、胸痛などが出現します。急性心筋炎は、小児の中等症・重症の新型コロナウイルス患者のうち、2%程度と多くありませんが、急激に心肺機能停止に陥る可能性がある非常に恐ろしいものです。

重症例③ ~MIS-C~

新型コロナウイルス感染症に続いて、感染の2~6週間後に全身の臓器に強い炎症を起こすものです。
持続する発熱、胃腸炎のような症状、川崎病のような症状(目の充血、口の赤み、手足の腫れ)などが特徴です。MIS-Cも珍しい病気ではありますが重症度は高く、なかには心不全を起こして命を落とす方もいます。

ワクチンについて

小児での感染予防効果は、デルタ株が流行していたころは90-100%と報告されていました。
オミクロン株ではおよそ30-60%と発症予防効果は低下していますが、重症化や入院の予防効果70-80%と高い結果を示しています。
オミクロン株に対しては、発症予防効果は高いとは言えませんが、重症化予防効果という観点からは有効なワクチンであると考えます。

副作用についてです。まずは軽微な副作用として発熱がありますが、発熱の頻度は成人よりも少ないです。重大な副作用としては、アナフィラキシーと心筋炎があります。
成人も含めた検討ですが、アナフィラキシーは100万回に数件程度で起こるとされています。
心筋炎は100万回に1~2件程度の頻度と報告があり、新型コロナウイルスに感染することで心筋炎にかかる頻度よりは少ないです。また、万が一なってしまっても良くなることが多いです。

当たり前ですが、ワクチン接種にはメリットとデメリットがあります。
私は基本的には接種を推奨していますが、それぞれの置かれた立場・価値観によっては、メリットよりもデメリットが上回ることもあるかもしれません。誤った情報に惑わされず、相談するべき相手を間違わず正しく理解して自分で決断することが大切だと、私は思います。

こころへの影響

最後に、新型コロナウイルスによる子どものこころへの影響も触れておきます。

新型コロナウイルスによる直接の影響ではありませんが、新型コロナウイルスの流行前後で、お子さんの「うつ」や不安症状は約2倍に増えております。これには、世の中の大きな変化、コミュニケーションの困難化、ストレス発散の場の減少など、様々な要因があります。

子どものストレス症状は、頭痛や腹痛といった体の症状が前面に出ることもありますし、落ち着きのなさや不登校といった行動の変化が出ることもあります。一見、体の病気に思われても、実はこころが原因であるケースも多いです(逆もあるので注意は必要ですが)。

お子さんにとっては、困っていることを表現する・大人に相談するということ自体が難しいことも多いです。「いつでもなんでも言っていいんだよ」というあったかい雰囲気を日ごろから意識することが大事です。お子さんから相談があった時には、お子さんの気持ちを否定せずに共感する姿勢をとるようにしましょう。そして、対応に困るときは親御さんだけで悩みをかかえず、小児科へ相談してください。すぐに解決する魔法のようなものはありませんが、小児科医も一緒になって良い対応を探していきます。

【参考文献】
 N Engl J Med 2021;385:239-250
 N Engl J Med 2022;386:35-46
 MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022;71:422-8
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 JAMA 2021;325:1101-2
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