蜂窩織炎(ほうかしきえん)がTwitterのトレンドに挙がっていました。
ありふれた病気ですが、名前の分かりにくさから、詳しくは知られていない病気ではないかと思います。 Twitterで話題になっていたこともあり、「蜂窩織炎ってなあに」と気になっている方も多いのではないかと思います。蜂窩織炎を診察する機会の多い小児科医師として、蜂窩織炎について解説いたします。
蜂窩織炎とは?
蜂窩織炎=「皮膚・皮下脂肪」の感染症です。
人間の皮膚の下には皮下脂肪があり、その下には筋肉があります。つまり、皮膚・皮下脂肪・筋肉の3層構造です。そのうち、1層目の皮膚の深い部分と2層目の皮下脂肪に感染が及んでいるものを「蜂窩織炎」と呼びます。 3層目の筋肉の層にまで感染が及んでいるものを「壊死性筋膜炎」と呼び、蜂窩織炎よりも重症で緊急の状態です。
蜂窩織炎のネーミングの意味は?
「蜂窩」とは「ハチの巣」のことです。感染した皮膚を顕微鏡で見た時に、「ハチの巣」のような空洞が見えたことから、「ハチの巣(蜂窩)のような組織の炎症」ということで「蜂窩織炎」という名前になりました。
「肺炎」や「中耳炎」のように、「○○炎」の○○は体の部位のことが多いです。しかし、「蜂窩織炎」ではそうではありません。「蜂窩織」という体の部位はありません。
また、「蜂」という漢字が入っていますが、蜂に刺されることが関係しているわけでもありません。
大事なことではありませんが、「蜂窩織炎ってどういう意味?」と気になっている方は、ご参考にしてください。
なぜ蜂窩織炎になるの?
蜂窩織炎の原因の多くは、溶連菌と黄色ブドウ球菌という細菌です。
この2つの細菌は、我々の住む環境のいたるところに生息しています。そのため、今あなたの手にもくっついているかもしれません。しかし、それだけで感染を起こすわけではありません。
ではどうなると感染を起こして「蜂窩織炎」となってしまうのでしょうか?
人間の皮膚は、細菌に対してとても強いバリアの役割を持っています。そのため、皮膚に細菌がくっついただけではそう簡単に感染を起こすことはありません。
しかし、何らかの理由で皮膚のバリアが破れていると、そこから細菌が侵入して感染を起こすことがあります。
皮膚のバリアが破られる理由には、虫刺されや擦り傷などで皮膚が損傷している場合や、湿疹などがきちんと治療されておらず皮膚の状態が悪い場合などがあります。 細菌は小さな傷からも侵入できるため、目に見えないほどの傷が原因になることもあります。
蜂窩織炎の症状は?
蜂窩織炎になると、皮膚が赤く腫れて、熱を帯びて、触ると痛みがあります。
全身のどこにでも起こりえますが、手足に発生することが多いです。
熱が上がって寒気がしたり、関節痛やだるさなどの全身症状が出ることもあります。
蜂窩織炎の検査と診断は?
血液検査で炎症の値をみることもありますが、蜂窩織炎に特別な検査はありません。
蜂窩織炎の診断は、医師の診察と病歴聴取がメインです。
蜂窩織炎の治療は?
蜂窩織炎は細菌感染のため、抗生物質(抗菌薬)が有効な感染症です。
一般的に軽症の蜂窩織炎であれば、飲み薬の抗生物質で良くなります。
抗生物質が出された場合は、症状が良くなっても独自の判断でやめるようなことはせずに、医師の処方に従って飲んでください。アレルギーのような症状が出た場合は、速やかに病院を受診して、薬を続けるかどうか相談してください。
症状の強い蜂窩織炎や、飲み薬で良くならない場合は、入院して点滴の抗生物質が必要な場合もあります。一般的に以下のようなケースが該当します。
- 高熱を伴っている場合
- 手足以外の部位(特に顔面)に発生した場合
- ぐったりしているなど、全身症状が強い場合
- 食事や水分摂取が減っている場合
- 症状の進行スピードが速い場合
- 持病のために、重症化するおそれがある場合 飲み薬で良くならない場合
蜂窩織炎は予防できるのか?
「これさえすれば絶対に蜂窩織炎にはなりません」というものはありませんが、感染の可能性を下げるためにできることはあります。
ひとつは、皮膚のバリアをきれいに保つこと。もうひとつは、細菌を寄せ付けないことです。
皮膚のバリアを保つために、皮膚の病気(アトピーや湿疹など)があればしっかり治療しましょう。特に赤ちゃんの皮膚をきれいにすることは、アレルギーの発症を予防する効果もあり、いろんな意味で重要です。
そして、細菌を寄せ付けないための対策として、手洗いやアルコール消毒をきちんとしましょう。虫刺されやけがをした場合は、水道水で入念に洗い、清潔に保つことが大切です。
蜂窩織炎は人にうつる?
蜂窩織炎は人から人にうつる感染症ではありません。
蜂窩織炎の原因はそこら中にいる細菌であり、蜂窩織炎の人だけが持っている病原体ではありません。
そのため、患者さんに近づいたり、肌が触れてしまうことでうつるということはありません。
最後に
以前、メディカルノートという医療情報サイトのほうで、蜂窩織炎についての記事を書かせていただきました。
同じような内容ではありますが、この記事を書いてから5年以上経っており、Twitterで蜂窩織炎に興味を示している方が多いようでしたので改めて記事を書きました。
少しでも参考になれば、幸いです。
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